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【雑記】山岳小説のススメ:夢枕獏『神々の山嶺』とネパール旅行の思い出。

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子どもの頃から、小説を読むのが好きで、小学生時代はライトノベルやファンタジーもの、中学生に入ってからはひたすら純文学、とりわけ海外作家のものばかりを読んでいました。

そんな嗜好も歳を取ると変わるもので、最近はいわゆる "山岳小説" もよく読むようになってきました。今回は、そのオススメ作品を、まつわる思い出と共に紹介。 

きっかけは、やっぱり"山"でした

 

"山岳小説"と呼ばれるジャンルを認知したのは、比較的最近のこと。

記憶する限り、初めて読んだ山岳小説は 夢枕獏の『神々の山嶺

漫画化も映画化もされているので読んだことのある人は多いと思います。この作品に関しては、小説も漫画もどちらもとても面白いです(映画は未見)。漫画化、映画化される作品はオリジナルの原作が結局は一番面白いというのは一般的ですが、この作品に関しては漫画も原作と同レベルで面白いのが凄い。

漫画の方はKindleで購入しているので、気が向くと読み返しています。

 

この本を読むことになったきっかけはもちろん、"山"。

 

 

2013年の11月、ネパール旅行に行き、ポカラという町から軽いトレッキングをして訪れた村、ダンプス。ポカラという町でさえ、首都カトマンズの喧騒とは真逆でのどかな町なのに、このダンプスまで来ると本当に何もない。ただの村。

そこから見えたアンナプルナ山系。何事も無いように佇んでいるそのほとんどが 7,000m以上 の山であるという驚愕の事実に慄き、そして、神聖な山とされており現在も未踏峰の山である、マチャプチャレの姿に心打たれました。

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右側に見えるのがマチャプチャレ


この旅では色々と出会いがあり、この村のゲストハウスでたまたま出会った日本人の女性がちょうど1週間(だったかな)にわたるアンナプルナのトレッキングから戻ってきたところで、その話を聞くだけで心踊りました。

さらに!彼女が雇っていたネパール人ガイドが、その年の5月に三浦雄一郎さんがエベレスト登頂した際のチームメンバー!! Tシャツもまだ着てるし!!笑

しかも、エベレストには数回登頂したことがあるらしい...

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この夜は、何故か、他のゲストハウスでの日本人グループの晩餐に加わらせてもらい、最後には、このネパール人に日本の伝統芸として、ビートたけし"コマネチ"を教えるという謎の流れで大いにも盛り上がりました。

今思い出しても、愉快な夜だったな... 笑。 

こういう面白い出会いがあるのでバックパック旅行はやめられない。

 

なお、この夜、風邪を引いてしまい、体調絶不調の中、翌日下山という過酷な思い出もしっかり脳裏に焼き付いています。

 

エベレストへの憧れ

 

目の前に広がるアンナプルナ山系を見ながら、ネパールに来る時の飛行機から見えたヒマラヤ山脈、そしてエベレストの姿を思い出しました。

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世界の尾根:ヒマラヤ山脈


そして、実際にエベレストに登った人の話を聞くと、それが現実的では無いだろうと自分ではわかっているものの、やっぱりエベレストへの憧れを抱いてしまいます。

持っていた「地球の歩き方」の、エベレスト登山に関するページを熟読し、帰国してからも、色々なサイトや動画をインターネットで探しては、見入ってしまっていました。

相当な量を見たので、エベレストの登攀ルートの全貌はなんとなく頭の中でイメージできています(笑)。

エベレストに限らず、ヒマラヤ山系や各大陸の最高峰などは、wikipediaでその登攀記録を読むだけでも本当に面白いです。もちろん、その多くには遭難記録や死亡記録も含まれますが、そのような事実が、常に死と隣り合わせの山だというリアリティを増幅し、夢中になって読んでしまいます。

 

"エベレスト登頂"という浪漫

 

当然のことながら、世界最高峰のエベレスト登頂は長らくの間、浪漫とされてきました。

そのエベレストの初登頂は、1953年にイギリス探検隊のメンバー、エドモンド・ヒラリーとネパール出身のシェルパであるテンジン・ノルゲイによって成されています。

ただ、それに先立って、登頂を果たしていたかもしれない人物がいます。

それが、「なぜ、あなたはエベレストに登りたいのか?」「そこにエベレストがあるから(Because it's there. )」でお馴染みの人物。ジョージ・マロリーです。

ジョージ・マロリーは1924年のアタックで登頂を果たしたかもしれない、とされており、その謎は今となっても解明されていません。

 

この、マロリーの登頂の謎をベースとして描かれたのが、今回紹介する神々の山嶺です。

 

神々の山嶺」のあらすじ...

 

主人公はカメラマンの深町誠。エベレスト登山隊の遠征に同行したあと、カトマンズの町の古道具屋でとある古いカメラを見つけます。

それが、ジョージ・マロリーが登頂した際に使っていたものとされるカメラと同じモデルであることに気付き、深町は購入します。ジョージ・マロリーのカメラ自体は結局見つかっておらず、もしかするとそのカメラに登頂記録が写っているかもしれない!というドキドキする展開。

そのあと、色々とあり、そのカメラの発見者を探す中で出会うのがもう一人の主人公でもある登山家の羽生丈二。天才登山家と呼ばれる羽生は失踪したことになっており、そこで羽生と出会った深町は、羽生が何故そこにいるのかを知るために追いかけることになります。

そして、羽生は前人未到のエベレスト南西壁冬期無酸素単独登頂に挑むことを決め、それを追いかける深町は、羽生と同時にマロリーの謎についても追い求めることになり...

 

というストーリー...

 

二人の主人公の目を通して、エベレスト登頂という浪漫、そして、これまでずっと謎とされていたマロリーの登頂の謎がそこに重なり、壮大な物語が展開されます。読み始めると止まらないです。

 

山岳小説の魅力

 

この作品の素晴らしいところは、登山そのものについても仔細に描かれており、それを読んでいるだけで、自分があたかもそこにいるかのような気分になってくること。

 

"そこにいるかのような" というこの感覚は、この作品に限らず、山岳小説の一番の醍醐味かもしれないです。

"山"という舞台は、宇宙でもなければ未来でも魔法の世界でもない、この世の中に間違いなくある場所での出来事。なので、読者はその場所のことを自分の目や写真、動画を通して見ることができます。

そして、小説を読む時には、主人公の目線で物語に没入することができる。

自分の知っている場所であれば、その場所を想像できるし、自分が行ったことのない場所であれば、いつか訪れるその時のことを想像することもできる。この没入感は他のジャンルの小説にはない特徴だと思います。

この「神々の山嶺」も舞台はエベレストというある意味では誰でも知っている場所。そこに挑むという冒険は胸踊ること間違い無し。読めば、エベレストについてもっと知りたくなります。

 

もちろん、エベレストを登ろうと思っていなくても十分楽しめます。むしろ、そういう人の方が当然多いか...

 

ただ、やっぱり自分が実際に登った山や、何か縁があった場所にまつわる物語は、自分の思い出とも重なって、とても楽しく読めるもの。

 

実際に読んだのはだいぶ前ですが、久しぶりに読み返そうかな、と書いていて思いました。

この本をきっかけに色々と山岳小説を読む始めました。他にもたくさん紹介したい作品があるので、また別の機会に紹介したいと思います。

 

 

下の写真はポカラのカフェにて。

マロリーが使っていたのはコダックのカメラだったようですが、自分の愛機はハッセルブラッドの500C/M。

今時フィルムカメラを使っている人はかなり珍しくなってきましたが、このカメラ、愛くるしいほど素晴らしいです。山道具も好きですが、カメラも大好きなので、カメラについてもそのうち色々と書きたいと思います。


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#024|山岳小説のススメ①:夢枕獏神々の山嶺』と、ネパール旅行の思い出。